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サステナブルな食生活のビーガンとは?
最近耳にすることが増えてきた「ビーガン(vegan)」というワード。ところで、ビーガンとは一体何を指すのかご存じでしょうか。
ビーガンは果物や野菜、ナッツ、穀物、豆類等の食品のみを摂取し、肉類(魚、貝、昆虫を含む)、乳製品、卵、はちみつ等の全ての動物性の食品を消費しない菜食主義者のことを指します。ビーガンというとその菜食主義の食生活にスポットライトが当てられがちですが、ビーガンの中には食べ物だけでなく、動物由来の製品や動物実験を経て開発された製品の使用や購入も避けている人がいます。なお、肉製品の摂取をしない菜食主義の人たちのことを指す別の言葉として「ベジタリアン」というのがありますが、ビーガンは先述した通り乳製品や卵を含む全ての動物性の食品を消費しない一方で、ベジタリアンは乳製品や卵は摂取する、という違いがあります。
ビーガンという言葉はイギリスにおいて1949年には既に定義されており特に新しい概念ではありませんが、イギリスのビーガン協会によると、イギリスにおいて2014年には15万人だったビーガンの数は2019年には60万人(人口の1.16%に相当)と5年間で4倍になっており、近頃ビーガンの数が急増しているとのこと。また、2020年現在世界では7,530万人のビーガンがいると推計されており、世界規模でもビーガン人口は確実に上昇しています。ではなぜ今、ビーガンになる人がが増えているのでしょうか。その理由を探ってみましょう。
ビーガンになる理由とは?
ビーガンになる理由は大きく3つあると言われています。それは、①環境への影響を減らすため、②健康のため、そして③動物保護のため、です。これらの理由について、①の環境面に焦点を当てつつ、もう少し詳しく解説します。
①環境への影響を減らすため
国連食糧農業機関(FAO)によると、特に発展途上国における世界人口の増加と経済発展から、今後も世界の食肉や乳製品の消費は伸びていくと予想されています。しかし、実は畜産が温暖化の原因となっている温室効果ガスの大規模排出源となっていることをご存じでしょうか。特に牛をはじめとする反芻動物(草を消化するために一度飲み込んだ食べ物を再び口に戻して再び咀嚼(そしゃく)する動物)のゲップには二酸化炭素の約30倍の温室効果を持つメタンというガスが含まれており、このメタンによる地球温暖化への悪影響が懸念されています。また、畜産の農地開発や家畜の飼料となる作物の栽培のために森林伐採が行われていることも問題視されています。実際に、南米のアマゾンにおいて2001年から2010年の間に年間平均で約400万ヘクタールの森林が伐採されており、この大部分が大豆と牛のための土地に活用されたという報告があります。

環境団体であるGreenpeaceは「農業は今後数十年で世界の温室効果ガス排出量の52%を占める予測され、そのうち70%は肉と乳製品由来である」と警告しています。一方で、2019年に発表されたインペリアル・カレッジ・ロンドンの発表によると、食事を菜食に変えることにより英国では現在の食事スタイルと比較して1人当たり最大73%もの二酸化炭素の排出を削減できるとされており、食事スタイルを変えることによる排出削減のポテンシャルが十分大きいことも確認されているのです。
このような背景から、自分が食べるものが温暖化や森林破壊に影響を与えることを懸念し、環境にやさしくサステナブルな食事スタイルを選択してビーガンになる人も多くいます。なお、ベジタリアンは従来の肉食の生活と比較すると環境の負担は小さいと言えますが、乳製品は消費することから、畜産と少なからず関係があることになります。一方でビーガンは畜産由来の食べ物を口にしないことから、ベジタリアンと比較してよりサステナブルでエコな食事スタイルと言えるでしょう。ちなみに、論文によると、典型的な肉食の食事から排出される二酸化炭素の平均年間量は2,055 kg(一日当たり5.63kgCO2e)に対し、ベジタリアンは1,391 kg(一日当たり3.81kgCO2e)、そしてビーガンは1,055 kg(一日当たり2.89kgCO2e)となっており、ビーガンの排出量は肉食と比較し半分以下となります。
②健康のため
肉を食べないなんて、むしろ健康に悪いのではないか、と思う方もいるかもしれません。しかし、プロテインは豆類からも摂取できるように必要な栄養素は植物ベースの食事でも補えることから、英国栄養士会は栄養バランスのよい食事を獲っているのであればどの年齢においてもビーガンが健康をサポートできる、と言っています。また、とある研究では、ビーガンは高血圧である人が少ない傾向にあるとのこと。ただし、どの食事においても大事なのはバランスです。ビーガンになることは栄養バランスを見直し、食事を改善するよい機会になるかもしれません。
③動物愛護のため
家畜の生育環境や、消費のためにと殺することに反対し、動物の権利を尊重してビーガンになる人もいます。ビーガンを実践している人のうち、特に肉や乳製品の消費だけでなく動物由来の製品や動物実験を経て開発された製品の使用や購入も避けている人は、動物愛護精神が高い傾向にあると言えるでしょう。
旅行先でビーガンの食事を試してみよう!
日本にもビーガンという概念は浸透しつつありますが、まだレストランのメニューでビーガンを見かけることはあまり多くありません。一方、イギリスはビーガンが広く浸透しており、多くのレストランでビーガンのオプションが用意されていることが特徴です。レストランの他にも、ファストフード等のチェーン店でもビーガンオプションを提供しているので、少し小腹がすいた時なども気軽にビーガンを試すことができます。

<ビーガンを提供しているチェーン店の例>
また、増加するビーガンの消費者の需要に応えるため、イギリスのスーパーではビーガンオプションを豊富に取り揃えています。レストランやカフェに行くのももちろん、スーパーでどんなものが売られているのか見てみるのも楽しいでしょう。お土産にビーガンの商品を買うのもよいのではないでしょうか。
<スーパーのビーガン商品>
ビーガンはひとつのライフスタイルとして広く社会に浸透しつつあります。ビーガンの概念の発祥地であるイギリスに旅行に行った際は、新たなライフスタイルの体験として、環境に優しいビーガンの食事を試してみるのはいかがでしょうか。
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【綾夏】
気候変動政策を専門とするコンサルタント。ボルネオ島にてオランウータン調査の経験を持つ。より多くの人が環境問題に関心を持つきっかけとなるよう、エコツーリズムの魅力を発信している。

