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サステナビリティ,  環境問題

旅行は環境に悪いの?

エコツーリズムやサステイナブルツーリズムといっても、結局飛行機を使って移動するんだから、環境に悪い、矛盾しているという声を聞く事があります。

実際、ヨーロッパ、特に北ヨーロッパでは旅行自体を控えるという人も出てきています。

そう、飛行機移動は確かに二酸化炭素など大気汚染をする有害物質の排出量が多いのが現状です。しかし、旅には国境を越えた相互理解や自己成長など、私たちにとって良い面もたくさんあります。平和産業である観光に携わっている人は、12人に1人。生活の糧になっています。多く国々では、観光を産業とする前、焼畑などで自然を破壊しながら農業をしたり、野生動物を密猟して生計を立てている人びともいたのです。

さらに、現在世界中で海外旅行をしている人は14億人。これらの人々がすぐに移動を飛行機を使って移動しないという選択をしたらどうなるでしょうか。そしてそれは現実的な解決策でしょうか。

そう、そんな単純な問題ではないのです。

こうしなければならない、と言うのは簡単。そして止めればいいと言うのも簡単。VR(バーチャルリアリティ)で旅行をという案もありますが、実際に人と出会って交流したり、関係を築いたり、実際の旅で起こるようなハプニングや驚き、感動を同じように再現することは難しいですね。実際に旅行が好きな人に、「次から実際に旅行するのではなく、VRで旅行気分を味わってください」と言ってみてください。おそらく同じような回答が返ってくると思います。

もちろん何もしなければ二酸化炭素排出量は抑えられます。でも、結局は現実的に実行できなければ何も意味がないのです。

交通手段問題、どうすればいい?

やっぱり旅が好きなんだ!という方、実際のところ本当に多いと思います。
そんな私たちができること、何があるでしょうか。

飛行機以外の移動手段を使う

飛行機の代わりに電車を使う事で移動による二酸化炭素排出量は減らす事ができます。特にヨーロッパや東南アジアの一部は陸続きなので、電車利用が可能ですね。電車の旅はまた違った気持ちよさ、思い出ができますので移動の時間も体験と考えてみましょう。

意味のない出張をなくす

あまり意味を見出せないような目的の移動があれば、代替手段を検討すべきだと思います。その出張、ビデオ会議で代替できませんか?本当に行く意味はありますか?経営者や決定権があるのであれば、意味のない出張をやめましょう。コストの削減にも繋がります。

直行便を使う

皆さんは直行便と経由便の移動量の違いが大気汚染物質排出量に影響があることに気づいていましたか?経由便より直行便の方が移動量が少ないので、その分排出量も少ないのです。どうしても飛行機で移動する必要がある場合は、経由便ではなく、直行便を選ぶようにしましょう。飛行時間も短いので現地で滞在できる時間も長くなる上、スーツケースがなくなる(ロストバゲージ)可能性も低く、体への負担も少ないので是非すぐにでも実行してみてください。

カーボンオフセット

飛行機に乗って旅行をする、という場合はカーボンオフセットが選択できるエアラインを選ぶというのも一つの方法です。二酸化炭素排出量分を吸収できる植林したりして相殺(オフセット)します。通常、フライト予約支払い時に、カーボンオフセットの費用を追加するか選択できるようになっています。

環境へのネガティブな影響を緩和し、再生可能エネルギーの取組みを支援するという意味では良いのですが、航空会社の3分の1しか積極的に相殺していないという情報もあり、世界的には旅行者の2-4%のみがカーボンオフセットを利用して相殺していると言われています。自分が追加で支払ったお金がきちんとオフセットに使用されているかどうか、透明性や信頼性がないため利用者が少ないということも言えるかと思います。

飛行機を利用して旅行する場合は、そのエアラインがきちんとカーボンオフセットの活動をしているか、ウェブサイトやインターネットで事前に情報を確認してみましょう。

電気や電池で動く飛行機開発に投資する

やはり、どうしても飛行機を使わないと行けない場所はありますし、カーボンオフセットは付け焼き刃のような気がする、という方もいると思います。

筆者は、根本的に問題を解決するのが不可欠だと思っています。

CO2排出量が問題になっているのは飛行機という移動手段そのものというより、飛行機から排出される有害物質ですので、これが改善されれば良いということになりますね。

テクノロジーを使ってエネルギー効率を測ったり、再生可能エネルギーを活用したり、様々な分野で人類が生き延びるためにサステイナブルな手法を生み出しています。

電気飛行機は騒音が少なく、小型で短い滑走路があれば離着陸できるため、より多くの地方空港や農村が世界と接続される可能性があります。さらに、電気飛行機はメンテナンス費用が少なくて済むため、航空券のコストが削減されるのではと言われています。電車や自動車のように線路や道路のようなインフラを作る必要がないのも環境負荷が少ないという意味でメリットですね。


個人でできる現実的な対応としては、飛行機を使わなくて良い際は環境に負荷が少ない交通手段を選び、意味のない出張は無くし、それでも飛行機で移動するときはカーボンオフセットを行い、環境に優しい飛行機の実用化に向けた開発に投資できるなら投資する!ということですね。もちろん日常や旅先でも、自分ができる範囲でリサイクルやエネルギー利用を効率化することは言うまでもありません。

それにしても今エコジェットの飛行機開発はどうなっているのでしょうか。
ちょっと見てみましょう。

クリーンエネルギーを利用した
飛行機開発の現状

米ボーイングは2014年12月3日、バイオ燃料である「グリーンディーゼル」を用いた世界初のフライトテストに成功したと発表しました。グリーンディーゼルは原材料として植物油と使用済み食用油、廃棄用動物性油脂を用いていて、燃料製造から消費までの二酸化炭素排出量を化石燃料と比較して50~90%削減できます。

コスト的にも石油系航空燃料と比較して競争力があります。また、生産能力は米国、欧州、アジアにあり、年間30億リットルを供給可能だと試算されていて、現在の生産体制でも全世界の航空燃料の最大1%を供給可能ということです。

航空燃料を一切使わず太陽電池で発電し、リチウムイオン蓄電池と組み合わせてモーターを回し飛行する「太陽光発電飛行機」もアメリカの企業で開発されました。この太陽エネルギーだけで飛ぶ飛行機「ソーラー・インパルス2」は2016年、液体燃料を一切使わずに初の世界一周飛行を成し遂げました。この情報は人々に希望をもたらしましたが、1名しか乗れない上、どちらかと言うとまずは地上の乗り物に技術が応用できると言われています。

トロント大学航空宇宙研究所の所長であるデビッド・ジング氏によると、「電気航空機の問題は、バッテリーのエネルギー密度がジェット燃料のエネルギー密度よりもはるかに低いこと。太陽光発電は、航空機が通常さらされるよりも多くの太陽光発電にアクセスする何らかの方法が発明された場合且つ、高速で重い航空機にしか実現できません。」

最大の問題は飛行に十分なエネルギーをどのように格納するかという点。研究者たちはすでにこの課題に取り組んでおり、ケンブリッジの科学者らによって、現在の技術より10倍のエネルギー密度を持つ特別なリチウム空気電池がすでに開発されています。しかし、その実用化にはまだ時間がかかるようです。

オランダ・ライデン大学ホイヘンス研究所のジョー・ヘルマンス教授は、「輸送機関に用いる燃料として、液体水素こそが最適である」と、燃料電池で飛ぶ飛行機に関する論文を発表し、

「自動車は電気だが、飛行機に限っては液体水素が適切。液体水素が最大の課題は燃料コストで、ジェット燃料よりずっと高い。乗員の数を制限したり、短い飛行時間ですむ場合には太陽電池飛行機も実現可能だ」と言っています。

ドイツ航空宇宙センター(DLR)のジョセフ・カッロ教授によると、「電動飛行機は、地方の旅行に最適」と言っています。バッテリー駆動の飛行機の範囲は石油駆動の飛行機の60パーセントに過ぎないため、250キロメートルから最大2,000キロメートルの距離の移動に適しているということです。

また、シンガポールのHES Energy Systems社が、水素燃料電池で乗客を乗せて飛ぶ環境にやさしい飛行機を開発しています。超軽量の水素燃料電池と分散型の電気航空機用推進装置とを組み合わせて飛ぶもので、翼には太陽光パネルが使われており、合計17枚のプロペラから風力発電も利用します。水素で飛びつつ飛行中の発電で電力を補うというものです。

HESは2025年までに、最初のプロトタイプを飛ばしたいと考えているようですが、4人しか乗ることができないので、プライベート機のようなものになるのではと言われています。

さらに、さまざまなハイブリッド電気飛行機の提供に焦点を当てた小型航空機のスタートアップであるZunum Aeroは、2017年JetBlueとボーイングから投資を受け、EasyJetはWright Electricと協力してバッテリー駆動の航空機を開発し、NASA も独自の開発計画を発表しています。Zunum Aeroは、2022年に最初の短距離旅客機が空を飛ぶ計画を立てており、2027年以降に大型航空機が就航する計画を立てています。そして、ノルウェーは2040年までに空港から出発するすべての短距離便が電気になるように取り組んでおり、2025年までにハイブリッド電気飛行機の導入を開始するようです。また、エアバスは2030年までに完全な電気航空機の開発に関心を示しています。

このように、世界中で地球に優しいエネルギーで飛ぶ飛行機の開発が行われており、研究機関や航空機メーカーも研究や投資をして実用化に向けて動いています。日頃目にするニュースでは、自動車の方が実用化に向けて進んでいるように見えますが、飛行機はより機体も大きく、距離も長いので、研究にはより時間がかかっているようです。日頃から開発の進捗に関するニュースに目を向ける、可能であれば投資する、など実用化を応援できることがあれば是非してみてください!

一般的に、私たちは、私たちの健康や地球の健康に長期的に有害な結果をもたらす可能性があるとしても、人間の性質的にどうしても自分たちに即座の報酬や利益をもたらすものを優先してしまう傾向があります。結果的に被害も大きくなり、困るのは私たちなのです。

意識的に全体的な利益、長期的な利益にフォーカスして行動した方が、最終的に私たち自身のためにも良いことが多いということですね!

Ecotourism Worldでは、旅のメリットを享受しながら、デスティネーションでどのように環境へのダメージを減らすことができるか、より長い目で、「持続可能な」影響をもたらす旅をするには、一人一人がどんな選択をすればいいのかをお伝えしています。ニュースレター配信をご希望の方はこちら


<参考>

https://www.itmedia.co.jp/smartjapan/articles/1412/18/news084.html

https://www.itmedia.co.jp/smartjapan/articles/1606/03/news063.html

https://logmi.jp/business/articles/320629

https://www.ecotourism.org.au/news/should-we-feel-guilty-about-flying/

https://www.itmedia.co.jp/smartjapan/articles/1703/14/news085.html

https://www.gizmodo.jp/2018/10/element-one-plane.html

https://www.dw.com/en/how-soon-till-we-all-fly-in-electric-planes/a-43473916

https://www.forbes.com/sites/jamesellsmoor/2019/03/07/innovation-takes-to-the-skies-electric-planes-are-about-to-revolutionize-the-airline-industry/#4237ff6f5651