
森でホームステイ!
おすすめのボルネオ島エコツアー
みなさんは「熱帯林」というと、どのようなイメージを浮かべますか?マングローブでしょうか、それともカラフルな生き物でしょうか。それとも蒸し暑い気候でしょうか。もしかすると中には、ちょっと危険そう…と思っている方もいるかもしれません。おそらく多くの人にとって、熱帯林は未知の世界であることでしょう。実際に熱帯林に足を踏み入れてみると、日本の森林では見かけない植物に遭遇したり、聞いたことのない動物の鳴き声が聞こえてきたり…と、冒険心をかきたてられるような世界が広がっています。
面積の半分が熱帯林のボルネオ島って?
フィリピン、マレー半島、スマトラ島に挟まれたところに、ボルネオ島(カリマンタン島)という世界で3番目に大きい島があります。この島はインドネシア、マレーシア、ブルネイの3ヶ国で構成されており、開発によって急激に減少しているものの、広大な 熱帯林を有していることで知られています。ボルネオ島の植物の種類は少なくとも1万5,000種あり、そのうち固有種は6,000種にのぼると言われており、オランウータンやピグミー象という世界最小の象など、世界的にも珍しい動植物が多く生息しているのが特徴です。
今回はそんなボルネオ島の現地住民の暮らしを体験しつつ、普段の生活では気付きにくい環境問題について深い洞察を与えてくれる、おすすめのボルネオ島(インドネシア領)のエコツアーについてご紹介します。
※エコツアーとは:自然を観察・体験することで生態系について学んだり、地域の自然や文化の保全に繋がる活動に参加したりするなどの、環境に配慮した旅行のこと
ボルネオ島が直面している問題とは?
ツアーのご紹介に入る前に、ぜひみなさんに知っていただきたい、ボルネオ島が直面している「問題」があります。
ボルネオ島では、アブラヤシのプランテーション(ひとつの作物を大量生産する大規模農場)の開発がこれまで急速に進んできました。アブラヤシからは、植物油の代表格であるパーム油の原料となる実を収穫することができます。パーム油はチョコレートやスナック菓子、洗剤の他、多様な身の回りのものに使用されており、日本に住む私たちの生活に欠かせないものです。最近ではバイオマス発電にまで使用されようとしていて、その急激な需要の高まりを専門家や政府は危惧しています。このパーム油の国際的な需要の高まりから、ボルネオ島ではアブラヤシの生産面積を拡大するために多くの森林が失われています。
また、昨年、ブラジルやオーストラリアで大規模な森林火災が発生し、多くの森林と野生動物の命が奪われたことは記憶に新しいかと思います。あまりニュースで報道されていませんでしたが、ボルネオ島でも毎年のように森林火災が多発しています。インドネシア政府の発表によると、2019年にボルネオ島のインドネシア領において70万ha近く(東京都3つ分以上)もの森林が火災により消失しました。森林火災の要因はプランテーション開発時の森林の焼き払いを主とする人為的なものです。ボルネオには、泥炭湿地という土壌に多くの炭素を多く含む特性の土地が広がっています。この泥炭湿地で、プランテーションのためにまず大規模に土地を乾燥させます。そのため火災が発生しやすく、地下深くで火が燃え広がり、雨が降らなければ人手ではとても消火できない状況を作り出してしまいます。気候変動による干ばつが重なり、3か月以上も燃え続けたこともあります(2015年)。
プランテーションへの転換と森林火災により、この数十年で広大な面積の森林が急速に失われてきました。ある研究結果によると、1973年には約76%を占めていたボルネオ島の森林面積ですが、2010年の森林面積は53%近く にまで減少しているとのこと。また、別の調査によると、2000年から2017年の間に失われた森林面積は、約600万ha(14%)にものぼるということです。
ボルネオ島のおすすめエコツアー
~森の中でのホームステイ~

そんなボルネオ島の森林破壊の問題について学ぶことができる、筆者おすすめの体験型エコツアーは、ウータン・森と生活を考える会が実施している「ボルネオ島エコツアー 森の中でのホームステイ」です。
ウータン・森と生活を考える会は、私たち日本人の生活とボルネオ島の熱帯林の繋がりについて情報を発信し、自然と共生する社会を作ることを目的に活動しているNGOであり、ボルネオ島インドネシア領のタンジュン・プティンという地域で現地住民と協働して森林の保全活動などに取り組んでいます。
「ボルネオ島エコツアー 森の中でのホームステイ」は約1週間の旅程でスケジュールが組まれています。ツアー内容はというと、2020年春のエコツアー(※コロナウイルスの影響により中止)では、タンジュン・プティン国立公園でのオランウータン保護施設の見学、アブラヤシのプランテーションの訪問、森林火災の発生現場の訪問、現地住民と一緒に森林の保全活動など、現地を満喫することができる充実した旅程となっています。
※エコツアーのスケジュール詳細や参加者の声は以下のウェブサイトからご覧いただけます。
ウータン・森と生活を考える会「ボルネオ島エコツアー 〜森の中でのホームステイ〜」
このエコツアーのおすすめポイント
「ボルネオ島エコツアー 森の中でのホームステイ」は野生動物との出会いやアブラヤシ農園の訪問など、日本とは違った世界を楽しむことのできるツアーですが、その中でも特に注目していただきたいツアーの魅力があります。それは、「現地の人々との交流」です。
交流1.現地のお宅にホームステイ
エコツアーのタイトル「森の中でのホームステイ」からも伺えるように、このツアーの参加者は、ツアー先のタンジュン・ハラパン村の現地のお宅にホームステイをすることになっています。現地の生活スタイルや家庭料理を体験し楽しむことができるのはホームステイならではの魅力ですね。
現地の方は、日本語はもちろん英語も使わない方が多く、つまりコミュニケーション方法は現地の言語とジェスチャーのみ、ということになります。筆者も言葉が通じない環境に飛び込んだ経験がありますが、言葉が分からなくてもジェスチャーや雰囲気で何を言っているのか分かることもあり、不思議な、でも心が温まる感覚を味わいました。ホームステイを通して、初めての生活スタイルや言語環境という異なる文化に身を置いてみるのも、思い出に残る経験となることでしょう。
交流2.現地の森林保全団体メンバーとの交流
もうひとつは、現地で森林の再生活動に取り組んでいる村の青年団メンバーとの交流会です。現在は森林の保全活動に精力的に取り組んでいる彼らですが、メンバーの中には、かつて違法伐採などに関わっていた人もいるのだそう。そんな彼らはなぜ今、森林保全に取り組んでいるのでしょうか。森林保全に尽力する青年たちの想いに耳を傾け、熱帯林が今どんな危機にさらされているのか、そしてその危機と私たちとの生活の繋がりを知り、考えるきっかけを与えてくれます。
<現地の人々への還元>
上記のホームステイでは、ツアー料金の4.2%にあたる8,000円がホストに支払われます。また、ホームステイの他、ガイド代、伝統工芸づくりの謝金、植林経費、植林や有機農法の実験場の訪問に対する現地NGOへの謝金や寄付を含めると、ツアー料金の17.8%が現地の村人の収入になっているとのこと(2019年実績)。地域経済に貢献しているという点からも、おすすめのエコツアーです。
このエコツアーにはこれまで、中学生から定年退職されている方まで、様々なバックグラウンドの人たちが参加されているとのこと。ツアー参加者の中にはリピーターさんもいらっしゃるのだとか。現地の方と一緒に植林をしたエリアの森林の様子は、定期的にエコツアーの参加メンバーに共有されるということで、帰国後も現地と繋がりが持てるのは素敵ですね。ツアー中はもちろん、ツアーからの帰国後もきっと、あなたの世界を広げ続けてくれることでしょう。
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あなたも環境に優しいエコトラベラーになってみませんか?
【綾夏】
気候変動政策を専門とするコンサルタント。ボルネオ島にてオランウータン調査の経験を持つ。より多くの人が環境問題に関心を持つきっかけとなるよう、エコツーリズムの魅力を発信している。

