森林破壊
環境問題

エコツーリズムが
森林破壊から森を守る

森林というと何を思い浮かべますか。小鳥のさえずり、木々のざわめき、木漏れ日…それともきれいな空気でしょうか。実際に森へ足を踏み入れると、街では感じられないような不思議なパワーを感じるとともに、とてもリフレッシュした気分になりますよね。しかし、世界では森林破壊が深刻な問題となっているという現状があります。今回は、エコツーリズムが森林破壊を防止するためにどう貢献し得るのかについてご紹介します。

森林破壊の現状とは?

森林破壊が進行しているということはよく耳にしますが、では世界全体で一体どれほどの面積の森林が毎年失われているのでしょうか。FAOのGlobal Forest Resources Assessment 2020によると、現在の世界の森林面積の合計は約40億haですが、その森林面積は1990年から2020年の間に年間平均780万haも消失したとのこと。なお、後半の10年(2010年から2020年)における消失面積は年間平均470万haに抑えられていますが、それでも東京ドーム100万個分の森林面積が毎年失われていることになります。この消失面積は正味の値(森林伐採面積から、森林になった面積を差し引いた面積)を示したものなので、もしこのペースで森林が失われれば、遅くとも90年後には世界から森林がなくなってしまう計算になります。特にアマゾンが広がる南アメリカでは、1990年から2020年にかけての森林消失面積が他の地域と比較して最も大きく、年間510万haが消失したとされています(2010年から2020年にかけては年間260万ha)。

このような森林破壊の理由について、2017年4月に国連経済理事会が採択した国連森林戦略計画 2017-2030では、貧困の削減や都市の開発に加え、政策において農業、エネルギー、鉱業、交通といったより多くの金銭的便益をより迅速に得られる土地利用が優先されていることを例に挙げ、森林消失は森林セクターだけの問題ではなく社会経済的な問題であると指摘しています。すなわち、人々が作り上げてきた社会構造がこれほどまでに大規模な森林破壊を引き起こしてしまったのです。

なぜ森林が重要なのか

森林破壊2

この国連森林戦略計画 2017-2030では、森林の重要性として、①世界の人口の約 25%に相当する約 16 億人の人々が、食料、生計、雇用及び収入を森林に依存しており、森林は人類や持続可能な開発、地球の健全性にとって必要不可欠であること、②森林は、木材、食料、燃料、飼料やシェルター等の重要な生態系サービスを提供するとともに、土壌や水の保全、大気洗浄に貢献すること、③多くの地域において、森林は重要な文化的、精神的な価値も有していること、などが挙げられています。また、森林は数多くの動植物のすみかとなっていることも忘れてはいけません。この計画の中で世界森林目標として掲げられている6つの目標のひとつには「森林に依存する人々の生計向上を含め、森林を基盤とする経済的、社会的、環境的な便益を強化する」というのがあり、その目標達成のための対策として、エコツーリズムの開発が挙げられています。

エコツーリズムとは?

エコツーリズムとは、日本エコツーリズム協会によると次のように定義されています。

  • 自然・歴史・文化など地域固有の資源を生かした観光を成立させること。
  • 観光によってそれらの資源が損なわれることがないよう、適切な管理に基づく保護・保全をはかること。
  •  地域資源の健全な存続による地域経済への波及効果が実現することをねらいとする、資源の保護+観光業の成立+地域振興の融合をめざす観光の考え方である。それにより、旅行者に魅力的な地域資源とのふれあいの機会が永続的に提供され、地域の暮らしが安定し、資源が守られていくことを目的とする。

エコツーリズムとは、旅行者がその地域の自然などについて学び、その利益が地域のコミュニティに還元されることで、地域の自然を保全しつつ持続可能な観光地の運営・発展をしていくというもの。つまり、旅行者だけでなく、その地域の人々、そしてその地域の自然にとってもメリットがあるツーリズムのあり方なのです。また、ヨーロッパでは森林散策やウォーキングをする人々が増加していますが、森林浴にはリラックス効果があり、ストレス解消や疲労の軽減に役立つとも言われているように、旅行者にとっては自然について学んだり楽しい思い出を作ったりするだけでなく、心身ともに健康になれるといったメリットもありますね。

エコツーリズムについて、もっと詳しく知りたい方はこちらの記事もご覧ください。

森林関連のエコツーリズムにはどのようなものがあるのでしょうか。エコツーリズムの考えに基づいたツアーのことをエコツアーを言いますが、森林関連のエコツアー例として、以前の記事でボルネオのエコツアーについて紹介しました。このツアーでは、ボルネオの森林が直面する問題について、現地の方とともに行う植林活動をはじめとする様々なアクティビティを通じて学ぶことができます。そして、最終的にはツアー料金の約18%が現地の人々の収入となって還元されており、地域の経済にも貢献しています(2019年実績)。このエコツアーについて、詳しくはリンク先をご覧ください。

もしエコツーリズムがなかったら世の中はどうなる?

エコツーリズムは、旅行者にとっても、地域の人々にとっても、そしてその地域の環境にとってもメリットのあるツーリズムのあり方だと述べましたが、もしエコツーリズムがなければ、どのような影響が起こり得るのでしょうか。

現在コロナウイルスの影響でエコツーリズムも大きなダメージを受けおり、世界中のエコツーリズム部門で数万人が解雇の危険にさらされていると言われています。エコツーリズムを主な収入源にしていた家計の多くは、コロナによるエコツーリズムの停止と失業率の上昇により、代替となる収入源として、持続可能ではない方法で生態系から資源を収集せざるを得なくなっている可能性があります。また、国立公園などではそのエリアを監視する労働者がロックダウンによって不在になったことにより、違法な森林伐採が増加しているとのこと。これらのことからも、エコツーリズムがその地域にとって自然の保全と経済活動の両立を保障する上で重要な役割を果たしていることが分かりますね。

まとめ

エコツーリズムは健全な森林の保全に繋がっています。せっかく美しい自然を楽しむのであれば、その美しい光景をその美しい姿のまま未来に残していきたいですよね。旅行に行かれる際は、積極的にエコツアーなどに参加して、楽しい思い出を作りながら美しい自然を保全していきましょう。

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【綾夏】
気候変動政策を専門とするコンサルタント。ボルネオ島にてオランウータン調査の経験を持つ。より多くの人が環境問題に関心を持つきっかけとなるよう、エコツーリズムの魅力を発信している。